解説   夢  殿


 東国から来た旅の僧が桜咲く春の法隆寺に参拝していると、一人の老翁が現れて夢殿に案内しつつ、太子にまつわる神秘的な説話などを語る。そしてさらに、片岡山において太子が飢人を哀れみ救った話から、聖徳太子誕生の奇瑞や十七条憲法の理念について語るのだった。やがて老翁は飢人を葬った棺の前に来るとたちまち金色の光を放って、夜嵐の花に紛れて夢殿に消える。
 夜もすがら、太子を回向する僧の前に、駿馬に乗った聖徳太子が姿を現す。そして、黒駒に乗って富士山上を駆け、遠く北越の空まで巡ったという説話さながらに、連なる峰々を天翔けるのだった。
 夢殿の前で奉納され、その模様がテレビ中継されたこともある、喜多流の新作能。美しい情景描写と、天空を飛ぶ太子の姿が印象的。関西喜多流の孤塁を守る京都の高林白牛口二は、今回が初演である。

大槻能楽堂自主公演能パンフレットより 石淵文榮


原作 土岐善麿  型附・節附 喜多 実  初演 昭和18年 喜多 実
後の早舞を、とくに「黒駒之舞」といい、特殊な演出が入る。


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